LOGIN赴任先で元夫がインフルエンザに罹った時に様子を見にきてくれた女性だって相手が元夫じゃなくて、ジャガイモのような顔をした如何にも女性と縁遠い容姿の男性《おとこ》だったなら、2日間も訪ねてきて細々と世話をやいてくれただろうか? 聞くところによると、初日は汗まみれになったパジャマ代わりのスエットまで洗ってくれたらしい。 きっと脱がすのも手伝ってもらってたんじゃないかな。 元夫は、病気で動けない病人だから世話をしてもらったと思ってるのかもしれないけれど、女性のほうに1mmも下心がなかったと言えるだろうか。 きっとその女性は、前々から元夫に好意を持っていたと思う。 私の母が突然訪ねていって、ふたりでひとつ部屋の中にいるところを見られ、あのあと女性は元夫に接近するのを止めたのか、はたまたあの時のことをきっかけに妻が側にいないのをいいことに親密になったのか、知る由もないけれど。 私はそんな異性問題で悩まないでいられる男性《ひと》と結婚したから、今となっちゃ知ったこっちゃないって感じ。「俺はそんなに信用をなくしてたのか? 君を欺いて不倫していると思われていたのか?」 君のことを妻として大切に思っていないと思われてたんだ?」 由宇子は、瞬きひとつせず真っ直ぐに俺を見つめてきた。 その瞳には、後悔や言い訳や、そしてそんな感情と共に、もはや俺に対する怒りさえも灯ってはいなかった。 何故ならその瞳は確かに俺を見ているのだが心が……魂が…… 俺の目を突き抜け、遥か遠くを見ていた。 そしてもはや、俺の問い掛けに由宇子が答えることはなかった。 今度こそ俺は元家族の住む家を出た。
帰ろうと思ったのだが…… 由宇子には先ほど赴任先での女子社員から世話になった時のことを何故部屋に入れたのだと責められてしまったこともあって、改めていろいろと当時のことを思い出し、あれもこれも……もしかして離婚される原因だったのだろうかと思い始めると聞かずにはいられなかった。「なぁ、赴任する少し前に来た匿名の手紙の件、あれももしかして……いやあのことは、ちゃんと説明したのだし理解してもらえてたと思ってたけど、俺の独りよがりだったりするのか?」「そうよ独りよがりだった。 どうしてそんなに無防備なの? どうして妻を不安にすることを仕出かすの? 当時のあなたの言い草を思い出すだけで、情けないわ。 得意げに、オウムのように何もなかったばかりを言うのではなくて、反省の言葉を述べて、次からは気をつけるすまなかったと言ってほしかったわ。 それにね、女房思うほど亭主モテもせずって確かにそんな夫たちもいるけれど、自覚がないのか、ない振りをしているのか知らないけど、あなたは昔から女性にモテるじゃない。 結婚してからだって結婚指輪しているあなたに粉をかけてくる女子社員は少なからずいたはず。 会社にいない妻に何が分るんだとか、舐めない方がいいわよ? もう今更なことだけどね。 案外妻ってそういう情報網持っていて、よく把握してたりするもんなのよ?」「同僚や部下からよく相談と称して、あなたのスマホには一体何人の女性たちからメールが入っていたことか。 私が知らなかったとでも? 休日家に居た時、あなたから手が離せないから電話に出てほしいと言われたことがあって代わりに出たら、会社の女子社員からだった。 今は出られないから後からかけさせますと言って電話を切ったあと、なんとなく気になっていろいろと送受信着暦を見てしまったの。 それ見てすごいなと思った。 男は妻子がいても外ではパリっと仕事の出来る、男《single》の顔でいられるもんだから――。 独身の頃と代わらずモテてますな……って思った。 手紙に書いてあった女性の話だけど、ホテルの部屋の中まで付いていって、あなたを押し倒してくるなんてよっぽど好きでないとできないことよ」 この元夫《ひと》は分かっているのだろうか。 毎度毎度寝言は寝てから言えよって言いたくなるような、言い訳し
敢えて自分が言うほどのことでもないと、言わずにいたことだが、何もなかったのだし笑い話にするつもりで事の顛末を正直に俺は話した。「それがさ、悪酔いしたからこりゃあ駄目だと思って、目についたラブホに即効入ったんだけど、会社の性質の悪い女子社員が一緒に付いてきたみたいでドアを開けて部屋に入った途端、後ろからそのままベッドに押し倒されてしまったんだよな。 笑うだろ? 飲み過ぎて体調不良になった男を襲うなんて普通じゃないよ全く」「ふ~ん、それで?」「何してんだよお前って言って、ひっぺがして俺はすごく眠かったからそのまんま寝たよ。 あとのことは知らん!」「知らんて、次の日は?」「俺のほうが先に起きた。彼女はグースカまだ寝てた」「で?」「でっ? って、俺はとっとと1人で帰って来た……おしまい。 何もなかったよ、モチロン。 ホテル入ろうとした時に、その女子社員が俺の後から付いてきてたのを見てたヤツがいて、邪推して君に知らせてきたんじゃないのかな。 何も疚しいことはないんだから気にしなくていいんだよ、由宇子」「どうして……どーして、その女と一緒の部屋で一晩一緒になんかいられたの? どうして笑いながら普通に話すの? 私の気持ちは考えないの? 酔ってたって男女が一晩一緒に1つの部屋で過ごしたんでしょ? 何もないって有り得ない! どうしてすぐに女を置いて他の部屋に行かなかったの?」「酔って気持ち悪くなって早く横になって眠りたかったし、また別の部屋に移るっていうのは、その時考えつかなかった……な。 そもそも俺がその気にならないと行為に及べないんだからそっちの心配はしてなかったし。 男にその気がない場合、大事にならないさ」「今回は酔い過ぎてそんな気にもならなかったでしょうけれど、もし、ほろ酔い気分の時に襲われてその気になってたとしたら? そういうのは考えないわけ? その相手が常日頃から可愛くて、できればお手あわせ願いたい子だったら? 据え膳いただかずに我慢できちゃうの? あなた、危機感なさ過ぎじゃないの?」「何なに……焼餅まだ焼いてくれんの? 大丈夫だって! 女房思うほど亭主モテもせずって言うじゃないか。 さっ、この話しはこれでおしまいにしよう。 そんな手紙気にしなくていいさ」 確か、最後はそんなふうに由
ついさっきまで悩ましいと思いつつも、どこかに……どこか隙間を狙って……自分をその隙間に捻じ込むことはできないだろうか、そんなことを本気で必死に考えてた自分を、この時殴りたくなった。 これってとっくに詰んでる話じゃないか。 もはやこの家に俺の──俺の入り込める隙間などないのだと今度こそ理解した。 この8年間忙しいのに無理して帰らずともよい、思い切り仕事を頑張ってという妻の言葉を心からのものだと真に受けて、俺は嬉々として好きな仕事に打ち込み手応えを感じもし、その成果も上げた。 収入も増えるし部下だって増える。 役職にも付いた。 大団円で凱旋門を潜り抜けるような気持ちで自宅に帰ってみれば、我が家と思っていた家は他人《ひと》のモノになり、我が子と思っていた子らは俺を父親として認識していなかった。 こんな現実が待ってるって分かっていたら、単身赴任などしなかったよ由宇子。 家族を失ってまで選ぶような仕事なんてないさ。 俺は従兄弟《薫》と子供たちを見たあと、由宇子の顔を見た。 由宇子の表情と目が、俺に今まで言葉にしてこなかった何かを語りかけてきた。 こうなってみて、赴任前のことがいろいろと走馬灯のように俺の脳内を駆け巡りはじめた。 当時、大したことと捉えていなかったことが……説明したから解決済みと思っていたこととかが……いろいろと急に蘇ってきた。 単身赴任する少し前のことだが、ある日誰かから由宇子へタレコミという名の手紙が送られてきたことがあった。 それは、俺が会社の馬場真莉愛という女子社員と歓送迎会のあと、某ホテルへ一緒に入り一夜を共にしたという内容のものだった。 由宇子は俺に聞いてきた。「確か歓送迎会のあった夜は飲み過ぎて帰れなくなってビジホに泊まったって、言ってたわよね。 翌日昼前に帰ってきたあなたはそう言ってたけど、泊まった時、あなたひとりじゃなかったのね?」
まさに元夫が、想像だにしなかった私の新しい家族を目の当たりにして、驚き困惑している様を横目に、私は別のことに心を捉われていた。 それは……。 元夫との離婚の第一の原因は、単身赴任だったのだと彼にそう答えた。 私は真の理由から目を逸らして……心の奥底に仕舞い込んでいる本当の理由を……元夫に突き付けることはできなかった。 私にはそんな勇気も度胸もない。 第2子である息子が産まれてからずっとレスだったこと、そして何より、はっちゃけ女子社員の動画で知った夫の本心。 家族になった妻とのSEXなど有り得ない……のひと言が、私を恐怖のどん底に突き落した。 元夫の本心を初めて知った時、私はまだ30代初めだった。 まだ若いのにこの先一生夫婦の営みがない?……しない? こんな屈辱的で恐ろしいことがあるだろうか! そしてこんな夫婦にとってプライベートでデリケートな話を、ただの会社の頭のイカレた女子社員に、思わず口が滑ったにせよペラペラ話してしまうなんて。 もうこんな男《ひと》、捨ててしまいたいって、本気で思った。 そしてそのあとは、もう誰かが私の気持ちと行動を後押ししてくれてるの? っていうくらい、次から次へと失望させられることが起きて、気が付くと迷うことなく……捨てたいじゃなく捨てようっていう気持ちになってた。 私とはこの先、SEXしないと決めてる元夫。 もしその気になった時には外注するのか? そんなことが頭を駆け巡りはしたが、聞きたい?聞きたかった? ううん、聞こうと思うほどの元夫に対する情熱はあの頃、もはやカケラもなかったと思う。 聞いてみたい? いや、イマサラダ。
「思ってたのよ。 顔に書いてあったしぃ。 今の私の気持ち言ったげよっか。 ざまぁ~みろ! やったぜいっ。 めっちゃイケメンの若い男をGet。 可愛い子も作ったぜいっ。 文句あっか……って感じ?」*「や、止めろよ、そんな言い方。 由宇子らしくないよ」「あなたの妻でもないのに呼び捨ては止めてよね」「……」「それと今ここでいろいろ、どうして? と問い詰められてももう何も変えられないんだし、何も変わらないわ。 そういうことだから、あなたはこの先も大好きなお仕事をして綺麗な女性捜して、新しい生活をスタートさせてください。 オワリ!」「オワリって、おわり……って。 何なんだよ全く。 俺はどうすりゃあいいんだよ」 これ以上話をしても、もうどうにもならないのか? 気がつくと口を挟んできた北嶋薫は、どこか別の部屋に行ったのか姿がなかった。 今テーブルを挟んでいるのは、由宇子と、これ以上何も言葉を紡ぎ出せなくて途方に暮れている俺とのふたり。 もうぼちぼち引き上げるしかないのか……どうにか自分の心を宥めてこの運命を受け入れるしかないのか……絶望的にも近い気持ちでいとまするべく、立ち上がろうとした時、家の中からワラワラと子供たちが現れた。 ブランコを背に立っている8年前に別れたきりの3才と0才児だった娘と息子たちは、今や11才と8才になっていて、俺を余所のオッサンを見るような目つきで視線を投げ掛けてきた。 自分の娘と息子なのに、やけに視線が痛い。 上の娘 美誠《みま》は3才だったので、少しは覚えてないのだろうか。 3才じゃ無理だよなぁ~。 1週間2週間の別れじゃないんだから。 8年間3才のあの日から今日まで会ってないんだから、やはり父親として見てもらおうなんて甘いのか? まぁ、下の息子に至っては、いわずもがなだな。 そして知らない……やけに目ン玉クリクリな美形の4~5才児が恥ずかしそうな様子で俺を見ている。 そして途中でいなくなった妻の従兄弟の超イケメン男子《薫》はその腕《かいな》に大事そうに2才ぐらいのとびきり可愛い容姿に恵まれた幼児を抱いている。 子供たちを引き連れたイケメン薫《たい》は言った。「え~と、美誠ちゃんと智宏くんです……って、あっ知ってますよね? ふふっ、下のふたりがはじめまし







